広島高等裁判所 昭和35年(ネ)127号 判決 1961年7月13日
控訴人(被告) 山口県知事
被控訴人(原告) 山本昭子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述並に証拠関係は左記のほか、いずれも原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。
控訴代理人は、仮に被控訴人がその主張の如く、実父訴外山本二男より原判決添付目録記載の本件農地の贈与を受けたとしても、昭和二一年法律四二号農調法付則二項によれば、同法四条の改正規定は所定の認可を受けないでした農地に関する契約で、当該契約にかかる権利の設定又は移転に関する登記及び引渡のいずれもが完了していないものについても適用されるところ、本件農地については買収計画樹立当時そのいずれもが完了されておらず、所定の認可もなかつたから、所有権移転の効果は生じない。したがつてその後にいたり訴外山本二男が別訴において被控訴人等の請求を認諾しても知事の許可がない以上その効力はないと述べ、被控訴代理人において右付則二項の趣旨は農地についての所有権移転登記又は引渡のいずれかが完了しておれば所定の認可は必要でなく、控訴人は昭和一九年九月二八日贈与を受けると同時に本件農地の引渡をも受けているから、控訴人の右主張は理由がないと述べた。
証拠として被控訴代理人は当審証人山本二男の証言を援用した。
理由
当裁判所が被控訴人の本訴請求を正当として認容する理由は左記のほか、原判決の理由と同一であるからこれを引用する。
被控訴人主張の贈与につき、原審証人森安恒一の証言によれば、山本二男より本件農地買収計画に対し、異議申立をなし、村農地委員会において審議した際、財産贈与書(甲第一一号証)を提出したが、委員会においてその内容を真実なものと認めずこれを却下したことが推認できないものでないから、乙第三号証、甲第一七号証によつては原審の認定を覆えすに足りない。
次に控訴人の自創法四条一項の主張について、原審認定の事実によれば、本件農地の買収計画が樹立された当時、被控訴人等は実父山本二男の同居の親族であつたものと認められるところ、自創法四条一項によれば、同法三条の規定の適用については、農地の所有者即ち本件においては山本二男の同居の親族である被控訴人等所有の農地は山本二男の所有する農地とみなされるというに止り、三条以外の関係においても、被控訴人等所有農地が、山本二男の所有する農地とみなされるわけではないから、本件農地を買収するについては、農地委員会において被控訴人等を買収農地の所有者として買収計画を樹立することを要し、これに基き所定の手続を経由した上、被控訴人等に対し買収令書を交付すべきである。従つてさきに山本二男の所有農地として樹立した買収計画をそのままとして、山本二男を所有者としてなした買収処分のみを取り消し被控訴人等を被買収者とし、これに対して買収令書を交付しても、買収計画における所有者誤認のかしは依然として存続しているから、被控訴人においてその違法を理由に本件買収処分の取消を求めることは許される。
原審認定のとおり、本件農地の贈与は昭和一九年九月二八日になされたものであり、当時施行の臨時農地等管理令所定の農地所有権移転についての地方長官の許可を要する旨の規定は効力規定ではなく、しかも本件の贈与がなされたのは第一次改正農調法施行前であるから、これについて控訴人主張の昭和二一年法律四二号農調法付則二項の適用はない。
以上の次第であつて本件控訴はその理由がないから、民訴三八四条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。
(裁判官 三宅芳郎 林歓一 高橋正男)